2014年9月8日フジTVのMr.サンデー「地震予知特集」の残念さ具合
2014年9月8日にフジテレビで放映されたMr.サンデーの特集が残念でならなかった。
東大名誉教授の村井俊治氏の“主張”と、
JAMSTEC(海洋研究開発機構)の阪口秀氏の“研究”を、
「同じ地震予知を目指す研究者」として同列に扱っているのが残念すぎるのだ。
あえて辛口で言うならば、
前者は、思い込み。
後者は、科学。
世の中は、
・科学者が科学的批判を加える
・一般人がセンセーショナルな部分だけを取り上げる
・はたまた新聞がなんらかの勢力への批判を込めた持論を展開する
といった偏った論調しかない。
したがってここでは、高校生で理解できるくらいの、
やや科学に寄った理解しやすい説明で、二者の立場を述べよう。
まず、ちゃんと「研究」である、阪口氏から。
こちらは説明し甲斐がある。
◆阪口氏
TVでも流れたとおり、坂口氏の研究は物理学に基づいている。
実験と理論が導き出した事象が、
実際の地球でどのように起こるかを観測しようとしているのだ。
地球科学は、実物での実験ができない学問として有名である。
したがって、実験や理論という不確定要素を排除できる環境下で出した結論は、
そのまま地球には当てはまるとは限らない。
なぜなら、地球内部は不均質で、
一歩となりに行けば環境が異なるからだ。
だが、実験や理論が導き出した事象に、
どの程度の不確定要素を加味すれば現実の地球に近づくかがわかれば、
予知に一歩近づくのだ。
そのために、地球そのものを観測は必須なのである。
このように、阪口氏の“研究”は、
しっかりしたセオリーに基づいて(根拠をもって)行うものであり、
それゆえ国からも予算がしっかりついている。
◆村井氏
TVで流れた村井氏の作業を見て
「そこにどんな論理的背景があるんだ?」
と感じた人はどれくらいいるのだろうか?
明らかに阪口氏のとは映され方が違って奇妙さを覚えたが、
今の義務教育ではそれに気づけるような人間は育てていないので、
「おお、すごい!」
と単純に思った人が多かったらどうしよう、
と激しく動揺するのである。
もちろん、論理的背景がわからなくても、
今起きている事実を溜めて確率論的に展開していく方法は王道である。
しかし、問題はそこではない。
扱っているすべての変数があいまいすぎるのに一般に広めてしまっているため、
まさしく誇大広告となっていることだ。
たとえば震源は、地表から地下深いところでは600kmにまで及ぶ。
それを「地表の変化だけを見て地震発生を当てる」というのだから、
すでに意味不明である。
また、日本全土に地表の変位が見られた=地震の予兆、
という論理展開は、穴だらけで議論するに値しない。
が、何が穴かがわからないからセンセーショナルに受け止める人が
出てしまうんだと思うので、くだらないと思うが列挙する。
1.日本全土とは、どの範囲にどの密度なのか
2.変位とは、上下変動というが、上と下での違いはなんなのか
3.変位は4cm以上というが、その根拠は。それよりかなり大きい場合の扱いは
4.○か月後に震度5弱以上というが、3.11以後数か月以内にはほぼ必ず震度5弱以上が起きているから、その今の日本で当たり前に起きていることを言っているだけではないのか
5.「予知」する際に、場所を広範囲に複数個所述べているが、数打ちゃ当たるだけじゃないか
6.プロットしている点が、東京23区を丸々飲み込むくらい大きい○だが、どこの変位をどう見ているのか
7.そもそもマグニチュードを無視するのはなぜか
8.地震以外でその変位を説明できる事象は検討しているのか
9.この方法は、他国でも通用するのか
10.氏が抽出する変位と地震の物理学的関係は何か
さっと挙げただけでも10個になってしまった。
これ以上挙げるのもばかばかしいので、この辺で止めておく。
ナゾなのが、曲がりなりにも東大名誉教授という肩書で、
よくもここまで穴だらけの「パズルごっこ」を
公にする気になったな、ということである。
筆者も地震予知を目指してこの業界に身を置いたことのある立場なので、
どのような方法でも、地震予知につながるのならぜひ続けてほしいと思う。
しかし、その広報には、良心と誠意をもって、
一般人を混乱させない注意をどうか払ってほしい。
3.11以後にひっそりと地震予報なるサイトがいくつか立ち上がり、
背後に生命保険会社がいて一般人の財布へ忍び寄る気配がある。
村井氏の背後に表向き、生保は見え隠れしないし
「自費で」といっているから、善意だけで必死に予知を進めようとしているようにみえる。
しかし、有料メルマガを発行しているという時点で
「オレの趣味に、みんなお金出して」
といっているだけのようにしか見えないのである。
しかも、TVはそのメルマガを
「大企業や専門機関も・・・」
などと(誰に何をもらったのかもらってないのか知らないが)、
メルマガを取らないと乗り遅れる、的な煽り方をしているからタチが悪い。
それに、これに限らずあまりにおかしな論理を
まともっぽい肩書を宣伝材料に展開し、
一般人から金を搾取する怪しい企業が増えたら、
将来、本当に役に立つ論理が出てきても、
みな警戒してしまうではないか、と思うのだ。
日本は言論の自由が保障されているし、
反社会的勢力でなければ事業の自由も保証されている。
だから、事業化することに文句はいわないが、
せめて、一般人を騙すかのようなやり方だけは避けていただきたい。
騙すやり方とは、ダイエット効果がないのに「みるみる痩せる!」
のような宣伝文句で商品を売ってしまうようなことだ。
ダイエット食品は法律でこのような表現が規制されているが、
地震予報(という、現在では成り立つはずがないもの)は、
その表現を規制する法律がない。
だからこそ、精度が低すぎる、場合によってはもしかしたら
「オカルト」の域を脱しきれない情報については、
事業者自身が良心をもって規制を敷いてほしいのだ。
ディスカッション
コメント一覧
はじめまして。たまたま通りかかったのですが、村井俊治氏の地震予測などについて、まさにおっしゃる通りだと思っており、10個挙げられた指摘についても、強く賛同したので、ついコメントしてしまいました。
すでにご存じかもしれませんが、「横浜地球物理学研究所」というブログでも、村井俊治氏のデタラメさは分かりやすく批判されています。
http://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/47e78b9471e8cbc740b0c0efa0ef710a
http://blog.goo.ne.jp/geophysics_lab/e/51b8dd178cae1a58be6cb9a3bf70c304
2ちゃんねるなんかでも、たとえば下記のスレッドで批判されています。
http://hayabusa6.2ch.net/test/read.cgi/eq/1416665875/
ところが、相当数の一般市民が、まさしくご懸念のとおり、センセーショナルに村井氏を賞賛していしまっているようです。週刊ポストや週刊現代といった二流どころが、彼を繰り返し取り上げています。村井氏のtwitterも、相当熱烈にフォローされているようです。
嘆かわしい限りであり、まったく溜息が出るやら、村井氏に憤りを覚えるやらで・・・
こういった、まさに「オカルト」の域を脱していないものを、さも科学的なもののように広めるような行為を、どうしたらなくせるんでしょうか。占いがなくならないのと同様に、諦めて野放しにするしかないのでしょうか。少々悔しい思いがします。
追加情報をありがとうございました!
そもそもあの経歴のM氏がなぜこれら基本的な誤解・誤認の下つき進んでしまうのか激しく理解しがたいのですが、大きな問題はもう一つ。
まさに仰るとおりマスコミの不勉強からくる思い込みにあると思います。
彼らは、M氏を祭り上げるだけでなく、実に普通に科学的に論ずる地震学者を、さもことらが間違いかのように批判しています。
そうすることで部数が伸びるからしているんだと思いますが、あまりのやり過ぎに悪意さえ感じています。