家に震度7を加える実験を見学させてくれるE-ディフェンス
ほとんどの方がご存じないでしょう。
この壮大な実験をなんと無料で見学させてくれるなんて。
ニックネーム「E-ディフェンス」は、防災科学技術研究所の兵庫耐震工学研究センターが所有する、世界で唯一といっていい、すんばらしい実大三次元破壊実験施設なんです!
・・・漢字ばかりで「なんのこっちゃ?」ですね。
ようは、「E-ディフェンスってのは、実物大の家やビル、橋梁とかの構造物を人工地震で揺らして、どんな壊れ方をするかのデータを取る施設」ってことです。
残念ながら地震は現在、予知ができません。
予知ができるならわざわざこんな施設を作らずに、地震で影響を受ける建物にセンサをつければいいだけです(そもそも論として、完璧な予知ができたら明らかに多大な被害が及ぶ場所に構造物は建てません)。
だから日本では、地震に遭う前提で構造物を建築する必要があるのです。
であれば、地震に遭ってもその被害をできる限り軽減したくなります。
軽減するには、地震動による構造物破壊の威力を知っておく必要があります。
(注:地震、地震波、地震動の違いは、防災科研のこのページを参照)
なぜ、このような発想になったのか。
それは、1995年の兵庫県南部地震による被害です。
死者6,432人、うち震災による直接的な死者5,500人超の9割が建物倒壊が原因だったのです。
人間活動を豊かにするための構造物が人を殺す。
こんなことがあってはなりません。
E-ディフェンスができた経緯の詳細や特徴、スペックは該当ページに任せるとして、そんなわけで兵庫県に設置されたのもうなずけます。
下図のとおり、E-ディフェンスは「+」の位置にありますが、地盤的には人口改変のなされていない平坦で古そうな丘陵地であることから、問題なさそうです。
(引用:地盤情報ナビ 兵庫県三木市)
周辺情報を書いていると、いつまでたっても本題にいかないので、じおじぃ・もじおが参加した「地盤配管設備等を再現した木造3階建て住宅の機能を検証するための震動台実験」の報告です。
リンク先のページのように、太っ腹にも一般人に実験を公開してくれています。
筆者は、E-ディフェンスができてから、一度は見学に行きたいと願っていました。
しかし、なかなかの立地のため行く覚悟ができず早10ン年。
今回、デ活の一環で見学させていただけることになり、嬉々として向かいました。
緑深い自然豊かな道をはるばる来ると、似つかわしくない白い構造物が見えてきました。
到着です、E-ディフェンス。
でかいです。
そりゃそうです。
最大で10階建ての建物をこの中で揺らせるんですから。
2Fのデ活関係者専用スペースに上がると、E-ディフェンスのサイトで見慣れたこの景色。
2棟建っています。
どちらも上物は、現代の耐震基準を十分に満たしている、国内で一般的に見る3階建ての住居です。
違いは基礎です。
左:地盤上枠組壁構法
右:免震軸組構法
今回はタイトルどおり、配管への影響を調べるわけですから、家そのものを壊す実験ではありません。
これらの計器はなんでしょうか。
電気、ガス、水道・・・。
何かは不明ですが、パイプが地盤に埋め込まれているのも見て取れます。
加震条件は次のとおり。
兵庫県南部地震 JMA神戸100%
加震時間46s
これもなんのこっちゃですね。
(ちなみに、タイトルは震度7としましたが、この条件だと震度6強、といっていたような気がします)
JMA神戸というのはサッカーチームの名前ではありません。
地震計を埋めた観測点の名前です。
兵庫県南部地震の地震波を、JMA神戸(JMA KOBE)が捉えました。
その波形は気象庁においてありますので気になる人は見に行っていただくとして、この波をそのまま再現したのを100%といっています。
兵庫県南部地震でJMA KOBEが捉えた波は地震波形を見ても数分間ありますが、このうち最大振幅を含む46秒間(46s)を実験に使用する、という意味です。
気軽に書いていますが、すごいんですよ。
左右に揺らすだけではないんです。
上下、前後、左右の3成分すべての波を入力するんですから。
まさに、兵庫県南部地震の再現です(あくまで、地震そのものを再現したのではなく、観測点JMA KOBEに到達した地震波の再現、という意味ですので誤解のないように)。
で、いよいよ「加震!」。
その動画は、じおじぃ・もじおの番外編↓
をご覧いただくとして、これが加震後の見た目。
違いがわからない・・・。
免震の方に赤いランプが点灯しましたが、一見、違いはこれしかわかりません。
ここで気づいてください。
動画をご覧になり、建物が「ぐわん」と波打ちましたが、それでも全然崩れないんです、日本の耐震基準に合っていれば。
すごいですね、この技術。
「家が壊れるのかと思ったら・・・」などと物騒なことは言わないでください。
この動画を見たら「おお! 諸外国の家だったらそっこう全壊だけど、日本の技術ならびくともしない!!!」といって感動するところです。
とはいえ、何かあるはず。
注意深い人でしたら動画の時点で気づいたと思いますが、免震ではない方は、家具の耐震化をしていないので、思いっきり倒れています。
そして、現場では遠すぎて気づきませんでしたが、写真をよく見るとこのように、加震前後で配管に直接的な被害が生じているのがよくわかります。
(左が加震前、右が加震後)
この実験で、センサーはなんと600カ所も付いているということですから、解析が終わったらE-ディフェンスのサイトで結果を公開してくれることでしょう。
さて、「太っ腹」とか「すごい」を連呼しましたが、この実験に一般人が見学できることの何がすばらしいのか。
筆者の考えを列挙します。
・防災科研もお役所。役所は危険が及ぶ可能性のある場所には一般人は近づけないのに、ここは公募して中に入らせてくれる。
・研究者向けの実験なのに、万人に見学の門戸を開いている。
・おそらく1プロジェクトあたり数千~億単位の金額(※)の実験をこの目で生で見られる。
・何より、実際の地震と同じ揺れを、カウントダウンつきのおかげで集中してこの目で見られる。
※文科省のH30予算案と防災科研のH29事業報告書を見ましたが、1実験当たりの単価を知ることは不可能でした。しかし、1実験あたりの光熱費だけで数百万円、今回は実際の家2棟を利用、などを考えるとこの規模の額になると考えられます。
確かに、はるばるン時間かけてこの地まで来たのに、実際に揺れているのはごく一瞬。
割に合わない、と思われる方もいるでしょう。
見学者のメリットは、上述のマニアック目線だけではありません。
これだけ大がかりな実験をして、人の命を守るための技術開発をさらに進めているんだ、と実感できます。
実感できれば、自らの防災対策が進むというものです。
今回は、一般的な人家の配管という見えないところをどう強靱化するかに使うデータ収集が目的です。
公共のライフラインは、耐震化が進んでいます。
例えばガスは、固い管ではなくPE管という、揺れても柔らかく変形するので折れることがない(ガス漏れをしない)管への置き換えを進めています。
水道管は、接合部が破損しやすいので、接合する管同士に十分なバッファのある管に置き換えています。
公共部分が強くても、個々の家が脆弱では、国が叫ぶ「自宅避難」に支障が生じます。
そういう意味でも今回の実験は、家に住む人なら全員が望む「命綱が壊れない家」の実現に向けた非常に貴重な実験なのです。
みなさんも、こんな機会が提供されているのですから、わざわざ機会を作って見にいってみてください。
最後に、見学させてくださった多くの関係者の方々に謝意を表します。
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