地震予測は「当たった」んじゃなくて「当たり前」

2021/02/23

昨日23:08に福島沖でM7.3、深さ60km、最大震度6強の地震が発生しました。
100名以上が怪我をされたとのことで、これ以上被害が広がらないのを祈るばかりです。

さて、この手の地震が起きると最近は
「予測が当たった」と大盛り上がりしている方々がいらっしゃるようです。

こういうのにすぐ乗っかってしまう人は、占い師のところに行って
「あなたは悩みを抱えていますね?」
と言われると
「なんでわかるの!?」
って反応をする、“自分が信じたいことしか信じない人”の傾向があるような気がするので(私見です)、そういう方はきっとこれは読まないでしょう。
ですので本稿は、“「あの予測は予測ではなく単なる統計だ」と考える派だけど、周囲が当たったと盛り上がっているとちょっと自信をなくしてしまう人”のために、まーったく難しいことをいわずに直感的に「なるほど、確かに予測ではないな」とわかるような説明をします。

念のため筆者の立場を伝えると、地震予知に向けてありとあらゆる方面からアプローチするのは良いことだと考えています。
最近はすっかり下火になってしまった宏観異常現象についても、密かに肯定派です。
あ、肯定というのは、科学的に検証されていると思っているというのではなく、今のところ科学的に検証も証明もされていないけど、人間より遙かに知覚の鋭敏な動物が、地震の前に何かを感じてもおかしくないんじゃないかなぁ、と思ってるんです。
さらにいうと、“地震の前”というのは正確ではなくて、“人間や下手したら地震計でも捉えられない、地震となる破壊の直前の地殻深部の変化(ごくわずかに岩石が割れるとかそういうこと)”ってのがおそらくあるはずで、それを人間以外の生物なら感じることはあるんじゃなかろうか、と妄想しているってことです。

本題の議論の前に、予知・予測・予報についてです。
いろいろ言い方があってそれぞれに定義がありますが、定義とか細かいことをいってるとただの揚げ足取りになるので、ここではこの3つの言葉は「未来について予言する」くらいのザックリした同じ意味、とします。

さて、twitterでハートマークがたくさんついた地震予測の某投稿ですが、まず、場所を特定していないので論外です。
次に、「大きい地震」って、震度なのかマグニチュードなのか、大きいとはどこからをいうのかもないので論外です。

「詳細は言えない」とあり、ここに抵抗のある人もいるかも知れません。
ですがまぁこれは、大人の事情ってやつでしょう。
商品として売っている情報を無料で公開しちゃうと、出資してもらってる人に悪いからっていう。
資本主義の世の中なんで、この変の事情について別にどーのこーのいうつもりはありません。

で、いったい有料メルマガでどの程度の精度でものを言っているのか(んな情報に1mmも金を出す気になれない筆者は)、読んでないのでわかりません。
なので、せめてどういう観点から情報を出すのかを知るためにサイトを見てみました。
サイトの情報だけで彼らのしていることを全て正しく判断できているとは思いませんが、少なくともそこに書かれている情報からするに、彼らの“予測”は“単なる統計”より劣っているんじゃないかと感じました。
その点を記載します。

「震度5以上の地震が予測から3ヶ月以内に起きたら“当たり”」とするとあります。
「今、震度5ってなくて5弱か5強のどっちかなんだけど、どっちなの?」
とかいうのも揚げ足取りになるので心の声にとどめておきます。
統計では、って小学生レベルの割り算の結果ですが、震度5弱以上の地震は、直近の3年間(1,096日)で計27回。
つまり、平均1.33ヶ月に1回起きています。

どこから出したかというと、気象庁の「震度データベース検索」というページです。

平均1.33ヶ月に1度起きるものをその2.56倍の期間である3ヶ月としたら、そりゃ当たるよねぇ・・・。

次に、これはメルマガを読んでいないのでわかりませんが、もし場所を特定していたとしても「東北の太平洋沖」とか「岩手・宮城の太平洋沖」くらいな感じなんじゃないかと思います。

下図は前述の気象庁震度データベースから引っ張ってきた別の図です。

いろんな色がありますが、○の場所が震央(震源の水平位置を地上にプロットしたもの)です。

あの地震予測ではどうもM5.0以上の地震を予知しようとしているようです。
メルマガでは「M5.0±0.5」という書き方をしているらしいので、直近3年間のM4.5以上の地震をピックアップしました。
「ってか、マグニチュードで予測しているのに的中率を震度で出してるって意味がわかんないんだけど・・・」
という突っ込みもただの揚げ足取りになるので心にしまっておきます。

で、ご覧のとおり、地震の発生が東北沖に密集しているのがおわかりかと思います。
なので、「東北沖」と書いておけば、ほとんど当たるんです。

ちなみに、地震学によって地震の起きやすい場所というのはつかめています。
無論、起きにくい≠起きない、ですので、起きにくい場所でも地震が起きることはあります。
ですが、統計的に起きやすい場所を言っておけば、当たる確率も高いのです。

いかがでしょうか?
数学や物理や統計学を駆使しなくても、「予測じゃなくて、確率論的に高いことを言っているだけだな」というのはおわかりいただけたかと思います。
AIとか使っているようですが、純粋な統計の方がよほど確度が高いというのもなんとなくおわかりいただけたかと思います。
そのことを詳細に知りたい方は、滋賀県立大教授の小泉尚嗣氏の
アナタもできちゃう!地震予測6 ―2021年版と2015~2020年予測の結果―
をご覧ください。

なんちゃら予測はざっくりと「関東地方」とか「東北の沖」とか「○○県から○○県」とだいぶ広い範囲を取っていますが、小泉さんの予測は県単位とはるかに細分化しています。なのにこの的中率です。

ふわっとした書き方の内容を信じて「スゴイ技術で地震予知ができるようになった」と感じるのが正しいか、統計処理として冷静な目で見るのが正しいか、それはみなさんのポリシーにお任せします。
思考・思想は自由ですから。

冒頭にも書きましたが、地震予知に対するさまざまなアプローチは、今後もどんどん出てきて欲しいと思いますし、本当の地震予知はできるに超したことはありません。
しかし、統計以下の精度の内容を予知や予測といったり、国民を惑わせかねないような情報発信の仕方をすることには、筆者は非常に抵抗があります。