アナタもできちゃう!地震予測6 ―2021年版と2015~2020年予測の結果―
滋賀県立大教授の小泉尚嗣さんから、「アナタもできちゃう!地震予測」の第6弾のお知らせがありました。
この方法より“当たる”地震予測があるならそれは一考の価値ありですが、今のところなさそうです。
小泉さんの方法ほど、震度とマグニチュードを混同することなく(これは小学生でも常識)、あらゆる条件・表記が公明正大な予測は他にないということです。なにが公明正大かというと、
・発生地域の境界を明確にしている。
・発生期間を特定している
・発生確率を数値で明示している。
・予測方法を完全に公開している。
・予測の結果を人が騙されない指標を複数用いて%で表している。
ということです。
つまり、これ以外の地震予測は、地域の境界が曖昧、数値を具体的に示さない、予測の結果は一見当たっているように見えるものだけ公開しているなど、信用に足る情報が不足しているのです。
「ホントかよ」と思った方は、うっかり残念な地震予測を信じている可能性がありますので、まずはこちらの記事【地震予測は「当たった」んじゃなくて「当たり前」】をどうぞ。
ということで、「今のところこの右に出る方法はない!」という手法が気になったアナタは、さっそくトライ!
(以下、滋賀県立大教授・小泉尚嗣氏寄稿)
はじめに
前回の報告(2020年2月)に引き続き,同様の手法で2018-2020年の地震活動をもとに,2021年の各都道府県における震度4以上の地震の予測を行います.
2021年における1年の予測と,各3ヶ月の予測です(実際は,2021年以降の任意の365日間および91日間の予測です).
後半では,同様のやり方でおこなった,2015~2020年の予測結果の検証も行います.
発生確率の考え方
気象庁震度データベースを用いて,2018年~2020年の3年間に各都道府県で震度4以上の地震を記録した回数を調べると以下のようになりました.
北海道で回数が多いのは,2018年9月に北海道胆振東部地震が発生したためです.
(各都道府県で震度4以上であった地震なので,その都道府県直下におこった地震とは限りません.また,大きい地震だと,複数の都道府県で震度4以上になるので,地震が重複する場合もあることに注意してください.)
41:北海道
26:茨城
20:千葉
16:栃木
14:福島
13:宮城
11:岩手
10:青森
8:群馬,埼玉,東京,鹿児島
7:長野
6:熊本,島根
5:岐阜,宮崎
4:愛媛
3:新潟,静岡,愛知,徳島,高知
2:秋田,神奈川,福井,京都,大阪,和歌山,広島,大分,沖縄
1:山形,富山,石川,三重,滋賀,兵庫,奈良,鳥取,岡山,香川,福岡
0:山梨,山口,佐賀,長崎
3年間の日数(365日✕2+366=1,096日)を上記の回数で割れば,それぞれの都道府県(場所)について平均の地震発生間隔T(日)が出てきます(0回については,Tが無限大とみなし,下記の確率は0とします).
震度4以上の地震の発生がポアッソン分布に従う(=一定の頻度でランダムに発生する)とすると,t日以内に震度4以上の地震が1つ以上発生する確率は1-exp(-t/T)という簡単な式になります.
ここで,exp(-t/T)とはe(自然体数の底:2.718281828・・・)の(-t/T)乗を意味します(この式の出し方については,こちらの記事をご覧ください).
「一定の頻度でランダムに発生する」というのがわかりにくいと思いますが,サイコロが良い例です.
サイコロの目は,1回振るごとにランダムに出ますが,平均すると6回に1度同じ目が出ます.
たとえば「1」の目は,6回に1度の頻度で(一定の頻度で)ランダムに出てきます.
tに365日を入れれば,1年間の発生確率.91日をいれれば91日間(約3ヶ月)の発生確率が出てきます.
確率70%以上で「震度4以上の地震あり」という赤予測をし,
確率30%未満で「震度4以上地震なし」という青予測をし,
確率30%以上70%未満で「不明(注意)」という黄予測を出すとすると,
実際には、
3年で4回以上発生していると年間予測が「赤」になり,
3年で1回以下なら年間予測は「青」になります.
また,3年間で15回以上発生していると3ヶ月予測は「赤」,
3年で4回以下なら3ヶ月予測は「青」となります.
計算はともかく,原理的には非常に単純なものと思ってください.
未来の予測
2021年の1年間で震度4以上の地震が起こるかどうかの予測
[A1]1年間で震度4以上の地震の発生確率が70%以上の都道府県
18カ所 → 18カ所で年間予測「赤」
北海道,青森,岩手,宮城,福島,栃木,茨城,千葉,群馬,埼玉,東京,長野,岐阜,島根,愛媛,熊本,宮崎,鹿児島
[A2]1年間で震度4以上の地震の発生確率が30%未満の都道府県・地域
15カ所 → 15カ所で年間予測「青」
山形,山梨,石川,富山,三重,滋賀,奈良,兵庫,岡山,鳥取,香川,福岡,山口,佐賀,長崎
[A3]1年間で震度4以上の地震の発生確率が30%以上70%未満の都道府県・地域
14カ所 → 14カ所で年間予測「黄」
秋田,新潟,福井,神奈川,静岡,愛知,京都,大阪,和歌山,徳島,高知,広島,大分,沖縄
図1:2018~2020年の地震活動を元にした、2021年の1年間(365日間)の震度4以上の地震発生予測.図の作成には「白地図ぬりぬり」というツールを使用.他の図も同様.
2021年の各3ヶ月間で震度4以上の地震が起こるかどうかの予測
[B1]91日間で震度4以上の地震の発生確率が70%以上の都道府県・地域
4カ所 → 4カ所で3ヶ月予測「赤」
北海道,茨城,千葉,栃木
[B2]91日間で震度4以上の地震の発生確率が30%未満の都道府県・地域
30カ所→30カ所で3ヶ月予測「青」
秋田,山形,新潟,石川,富山,福井,神奈川,山梨,静岡,愛知,三重,滋賀,京都,大阪,奈良,和歌山,兵庫,岡山,広島,鳥取,山口,徳島,愛媛,香川,高知,福岡,佐賀,長崎,大分,沖縄
[B3]91日間で震度4以上の地震の発生確率が30%以上70%未満の都道府県・地域
12カ所 → 12カ所で3ヶ月予測「黄」
青森,岩手,宮城,福島,群馬,埼玉,東京,長野,岐阜,島根,熊本,宮崎,鹿児島
図2:2018~2020年の地震活動を元にした3ヶ月(91日間)の震度4以上の地震発生予測.
過去(2020年)の予測の評価
さて,上記の手法はどれくらい当たるのか(外れるのか)を見てみましょう。
1年予測の成績
2017~2019年の地震活動から,2020年の1年予測を行ったときの成績を示します.
図3:左図:2020年の1年予測(赤・青・黄は図1と同じ意味),右図:2020年の1年間で震度4以上の地震を記録した都道府県(白)と地震が起こらなかった都道府県(黒)
[A1]1年間で震度4以上の地震の発生確率が70%以上の都道府県(赤)は18箇所で,そのうち13カ所で震度4以上の地震が発生しました.
[A2]1年間で震度4以上の地震の発生確率が30%未満の都道府県(青)は17カ所で,そのうち4カ所では地震が発生し13カ所では地震が発生しませんでした.なお,震度4以上の地震が発生しなかった都道府県は24カ所です.
[A3]1年間で震度4以上の地震の発生確率が30%以上70%未満の都道府県・地域(黄)は12カ所で,そのうち6カ所で地震が発生し6カ所では地震が発生しませんでした.
※地震が,同じ都道府県で期間内に複数回発生したとしても1回とカウントしていることに注意してください.A1~A3のカウントの仕方だと,震度4以上の地震は1年間で13+4+6=23回起きたことになります.
予測率: 13/23=0.57(57%)
安心率1: 13/17=0.76(76%)
安心率2: 13/24=0.54(54%)
・赤予測を評価する指標
適中率:震度4以上の地震が発生すると予測した都道府県のうち、地震が発生した割合
予測率:震度4以上の地震が発生した都道府県のうち、地震が発生すると予測した割合
・青予測を評価する指標
安心率1:震度4以上の地震が発生しないと予測した都道府県のうち、地震が発生しなかった割合
安心率2:震度4以上の地震が発生しなかった都道府県のうち,地震が発生しないと予測した割合
・どの数値も高いほど成績が良いことを示します.
・黄予測については評価しません.
適中率と予測率(予知率)は,1977年に地震学者の宇津が提唱した地震予測(地震予知)の評価の指標です.
「赤」予報をいっぱい出すと予測率は上がりますが,適中率は下がります.
絶対確実と思われるときだけ予報を出して当てると,適中率は上がりますが,予測率は下がります.
地震予報(地震予知)が有効かどうかは,適中率と予測率の両方を見なくてはいけません.
3ヶ月予測の成績
続いて,2020年の3ヶ月予測の成績です.こちらについては煩雑になるので図示しません.
[B1]3ヶ月間で震度4以上の地震の発生確率が70%以上の都道府県(赤)は3カ所でした.1~3月,4~6月,7~9月,10~12月の4クールそれぞれで赤予測をしたとして,震度4以上の地震が発生すると予測したのは12回となります.そのうち10回地震が発生しました.
[B2]3ヶ月間で震度4以上の地震の発生確率が30%未満の都道府県(青)は32カ所でした。上記と同様に4クールそれぞれ青予測をしたとして,震度4以上の地震が発生しないと予測したのは128回となります.そのうち112回は地震が発生しませんでしたが,16回は発生しました.なお,4クールそれぞれでカウントすると、震度4以上の地震が発生しなかった都道府県は141カ所でした.
[B3]3ヶ月間で震度4以上の地震の発生確率が30%以上70%未満の都道府県(黄)は12カ所ありました.上記と同様に,4クールそれぞれ黄予測をしたとして,不明(注意)と予測したのは48回となります.そのうち12回地震が発生しました.
B1~B3のカウントの仕方だと、震度4以上の地震は、10+16+21=47回発生したことになります。
予測率: 10/47=0.21(21%)
安心率1: 112/128=0.88(88%)
安心率2: 112/141=0.79(79%)
過去(2015~2020年)の予測評価のまとめ
2015年から、直近3年の地震活動によって翌年の地震を上述のように予測しています。
その結果である適中率と予測率の推移と平均値を、以下の表にまとめました.
表1 2015~2020年の1年予測の評価のまとめ
2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 平均 | |
適中率 | 0.90 | 0.94 | 0.62 | 0.75 | 0.67 | 0.72 | 0.77 |
予測率 | 0.59 | 0.46 | 0.89 | 0.50 | 0.62 | 0.57 | 0.60 |
表2 2015~2020年の3ヶ月予測の評価のまとめ
2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 平均 | |
適中率 | 0.75 | 0.75 | 0.57 | 0.53 | 0.64 | 0.83 | 0.68 |
予測率 | 0.53 | 0.29 | 0.68 | 0.33 | 0.37 | 0.21 | 0.40 |
1年とか3ヶ月といったある程度長い間隔で,震度4以上の地震といった発生頻度の高い地震を対象とする.
このような2つの条件を満たすと,簡単な方法かつかなりの確率で誰でも地震が予測できるということを知ってもらえたらと思います.
参考文献
小泉尚嗣・今給黎哲郎,2016,震度データを用いた地震の中期予測 -地震発生の「相場観」を理解してもらうために-,地震ジャーナル,62,35-40.
小泉尚嗣,2017,あなたにもタダでできる地震予測,日本地震学会広報誌なゐふる,109,4-5.
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません